たかが歯、されど歯

残存歯数は医療費にも影響します

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健康な人が普段健康の有り難さを感じないように、痛みも何もない時に歯に心を配る人は多くないでしょう。毎日もうちょっと丁寧に歯磨きをしていれば、この歯も抜かずに済んだのにと、私はしばしば残念に思います。

厚生労働省によれば、70〜74歳の高齢者で、1人が平均して持っている歯の数は13本以下という悲しい現実があります。普通、人は親知らずを除いて全部で28本の歯を持っているので、その半分以下となるわけです。そして10年後の80〜84歳では、残っている歯の数は1人7.4本です。しかも、80歳以上の高齢者のうち、実に半数の人が歯を全部失ってしまっています。これでは食事を楽しみ、心豊かな老後を送ることができるはずがありません。

残存歯数(残っている歯の数)が多い高齢者ほど、自立している割合が高いという報告があります。逆に、残っている歯が少ないほど、1ヶ月間の平均医療費は高くなることが50歳以上の調査で分かっています。歯が4本以下しか残っていない人は、20本以上歯が残っている人に比べ、ひと月あたり約5,600円も高いというデータが出ています。「歯に気を遣う人は、全身の健康に対する意識も高く、医療費を抑えることにつながっている」と分析されています。残った歯の数毎にひと月の平均医療費を計算すると…

50歳以上における残存歯数と平均医療費
残った歯の本数 平均医療費
0〜4本 33,654円
5〜9本 31,863円
10〜14本 30,909円
15〜19本 29,124円
20本以上 28,047円

上記の通り、本数が少ないほど高額です。また高齢になるほど残った歯の本数による月間の平均医療費の差は広がる傾向にあります。80歳の人では、残った歯が20本以上方の平均医療費は35,346円だったのに対し、4本以下では49,987円で、約15,000円の開きが出ました。

病気別の平均通院日数では、神経系の病気(パーキンソン病、アルツハイマー病など)では残存歯数20本以上の人が2.17日なのに対し、19本以下の人は3.56日と1.6倍に達しています。循環器疾患(高血圧、心疾患、脳梗塞など)でも20本以上が2.46日に対し、19本以下では2.82日と、残った歯が多いほど通院日数が少なく、健康状態の良好さを顕著に示しています。

1本の歯の大切さ

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よって、咬めないままにしているより、適切な咬み合わせを作ってあげれば、皆さんが支払われる医療費の削減につながる可能性があります。そして何よりも、それは「より健康でいられる」ということでもあります。

抜けた歯を1本放っておくと、周りの歯がその空間に傾いたり移動したり、また今まで咬み合っていた歯の反対側の歯に影響して、歯並びが悪くもなります。そうなると歯茎に負担がかかり、最後には健康だった歯まで抜けてしまうことがあります。つまり1本の歯を失って放置するということは「さらに次の歯を失う原因となる」ことから見ても、1本の歯の大切さがよく分かってもらえると思います。

「たかが歯」ですが「されど歯」なのです。